報告を機能させるための感情報酬の設計
組織の中で、報告が単なる形骸化した儀式になっていないだろうか。
僕が様々な組織を見ていると、報告をするサイドとされるサイドの間に、目に見えないミスコミュニケーションや情報の断絶が存在していることに気づく。「報告しても良い結果をもたらさない」という諦めが、組織の根底に静かに横たわっているのだ。
今回は、なぜ組織の中で報告が死んでいくのか、そしてその構造をいかにして打ち破るべきかについて考察する。
報告が死ぬ構造は感情的な逃げではなく合理的選択として現れる
報告が機能しなくなるプロセスは、驚くほど共通している。
- メンバーが悪い報告を上げる。
- 上層部から叱責され、評価が下がり、責任転嫁が起きる。
- メンバーは「言わないほうが得だ」と学習する。
- 良いことや無難なことだけが報告として上がるようになる。
- 上層部は現場の現実を完全に見失う。
報告をする側は、報告をしても無駄だと感じたり、不利益を被ると感じたりすれば、報告を極力形式的なものにとどめようとする。これを単なる「感情的な逃げ」や「能力不足」として片付けてはいけない。これは人間の性質として間違いなく存在する防衛本能であり、むしろ彼らは「期待効用最大化」という合理的な選択をしているに過ぎないのだ。
この現実を受け入れることから、組織の再設計は始まる。
情報開示のゲーム理論的構造
報告とは本質的に、「リスクを背負って情報を開示する行為」である。 したがって、組織の制度設計において、以下の3つの要素を組み込む必要がある。
- 情報開示のコストを極力下げること。
- 情報開示のリターンを明確にすること。
- 情報開示後の不確実性を減らすこと。
これらが設計されていない組織では、報告のシステムは必ず崩壊する。「倫理的に正しく報告すべきだ」という精神論ではなく、制度設計の問題として捉え直さなければならない。
悪い報告に対する「正の報酬」の重要性
合理的な選択として報告が隠蔽されるのであれば、逆の構造を作ればいい。つまり、悪い報告を上げることに対して「正の報酬」を与える仕組みが必要だ。
具体的には、以下のようなアプローチが考えられる。
- 早期報告ボーナス文化を根付かせる。 「問題の大きさ」ではなく「いかに早く出したか」を評価の対象にする。KPIを「問題の発見速度」に置くことで、報告の遅れを防ぐことができる。
- 問題を持ち込んだ人の評価を下げない。 ミスの責任と、問題を発見して開示したことの価値を明確に切り分ける。「隠したら重罪だが、自ら出したら無罪」というルールを徹底する。
- 上司が最初に自分の失敗を開示する。 心理的安全性は、制度以上に上位者の振る舞いによって形成される。リーダー自らが弱さや失敗を自己開示することが、組織の風通しを良くする最大のきっかけとなる。
最大のポイントは「最初の一言」にある
しかし、制度をどれだけ整えても、最後に問われるのは経営やマネジメント層の「姿勢」である。
悪い報告を上げたとき、報告された側が「問題に共に対処しようとする姿勢」を見せるかどうかが決定的に重要になる。「誰の責任か?」という犯人探しに向かった瞬間、報告は死ぬ。一方で、「どうやって一緒にこの問題を潰すか?」という共同作業に向かえば、報告は生き返る。
あなたがマネジメントの立場にいるなら、悪い報告が上がってきたときの「最初の一言」を振り返ってみてほしい。
「なんでそうなった?」と詰め寄れば、相手は萎縮する。 「いつから放置していた?」と問いただせば、責任逃れの言い訳を探し始める。 「ありがとう、早く知らせてくれて助かった」と受け止めれば、そこに信頼が生まれる。
最初の一言で、その組織の未来は決まる。報告の形骸化を防ぎ、現実を直視できる強靭な組織を作るために、僕たちはこの「最初の一言」から変えていく必要がある。