「アリサ・ヒューマノイド」は最高峰のロボットSFドラマ


ネットフリックスで、ドラマ「アリサ、ヒューマノイド(https://www.netflix.com/jp/title/81026915)」を見ました。

この作品は、僕の周りでは意外と知る人が少ないのですが、個人的にはこの数年で見たドラマでナンバーワン作品で、自分のAI・ロボットの今後の発展に対する見方に大きな影響を与えました。

すごく簡単にストーリーを要約しますと、近未来のロシアを舞台として、巨大ロボット企業が海外から取り寄せたプロトタイプロボット「アリサ」について、政府、企業、民間の反ロボット組織がそれぞれの思惑を持って動く世界で、アリサや、主人公で外科医であるゲオルギーおよびその家族の成長が描かれるというものです。

ストーリー解説はこちらの方のNote記事がよくまとまっていて1分ほどで読めますので、気になる方はぜひ。

https://note.com/sigen_dffoo/n/ncbfcc5952466

どのSFロボットものとも異なる作品

さて、近未来アンドロイドものと言えば、「I, Robot」や「Ex Machina」などの英語圏の作品をこれまで見てきましたが、本作はロシアものということもあって、作品全体の雰囲気もロシアっぽい様相です。

上述した作品で例えますと、アメリカ作品である「I, Robot」は、笑いあり涙ありで最後は大円団みたいなところがあり、Ex Machinaはイギリス作品ですのでまたちょっと違う雰囲気で、作品全体が神秘的というか、アメリカ作品みたいなド派手さはないんですが、静かに進んでいくんだけれど、知的好奇心をくすぐられるような倫理的な問いを投げかける作風です。作品内の至る所に、聖書ネタが出てくるのもそのような雰囲気作りに寄与しているポイントです。

一方本作では、アリサをプロトタイプとして取り寄せた国内最大のロボット企業「クロノス」の社長や創業者が、策略のために民間の反ロボット組織にあえてデモを起こさせて世論形成を図るというような形で手段を選ばない狡猾な動きをしています。そして主人公ゲオルギーも、自身が関与したクロノス社内部で起こった事件の隠蔽工作の証拠を放火によって消滅させようとするなど、全体的に目的のためには手段を選ばないようなダークな雰囲気が作品全体に漂っていて、英語圏の作品とはまた違う雰囲気を醸し出しています。クロノスは企業文化的には、現実世界のロシアで言ういわゆるオリガルヒ的な財閥企業として描かれており、政府と癒着しつつ、都合の悪いことは隠し通そうとする隠蔽体質の存在として描かれています。

ロボットと人間の対立を描いたターミネーターやI Robot、ロボットの意識について描いたEx Machinaなど、これまでのどの作品とも共通点は持ちながらも、感情を持つロボットという存在を、ここまでリアルに描いたという点で、個人的に本作は21世紀前半のロボットSF作品の中で最高峰と言われるレベルの伝説の作品になるのではないかと感じました。本作がすごいのは、制作・発表が2018-19年であるということです。2024年の今でこそ、生成AIの大爆発でこういった作品が生み出される世論的、文化的土壌が出来上がっているものの、2018年当時はそういった雰囲気はなく、AIというのはあくまでも情報感度が高い人ならわかる程度の先端技術の一つでした。当時の話題はと言うと、AlphaGoが最強の人間を打ち破ったとか、深層学習のニューラルネットワークやシグモイドなどのアルゴリズム的な知識が一般書籍で取り沙汰され、東大の松尾研が色々な企業と連携しているとか、限られた分野の問題解決や、アカデミックなレベルの話が多かったように思います。

本作で描かれるアリサの感情学習の様子は、僕が予測する未来の意識や感情を持つロボットにピッタリ一致するように感じ、それを2018年段階で描いた本作は、とてつもない想像力と深い教養を持つ制作陣の存在を確信させるものでした。

感情を持つロボット

さて、本作に登場するロボット「アリサ」の一番の特徴は、「人間の感情」を体温や脈拍、瞳孔の開き方などの生体情報や表情、周辺状況との関係性から読み取り、それを元に自身の行動を決定し、さらに学習していく点です。

家族の一員として迎え入れられ、家族を守り一緒に成長していくことを想定して設計されたアリサには、「ユーザー」という概念があります。ユーザーは第一ユーザーの家族であるとアリサに認識されれば複数設定することができ、アリサはユーザーを守ることを第一の目的として行動します。

ユーザーを守るということには、最も分かりやすいものとしては物理的な危険(自動車事故や暴力)から守ることが含まれますが、そのほかにも健康に悪影響を与える食品や生活習慣に対して注意を促すなど、多岐に渡っています。

そして人間の感情を読み取るアリサ自身もまた、感情を持つのです。この点はまさに、僕にとって本作を見ていての気づきが大きかったところです。

私たちは黒い箱に入った人間を人間と捉えることができるか